キュビズムは世界を愛する

実はおれ、キュビズムのやり方に気づいたんだ。いや、これはもうみんなすでに知ってるかもしれないけど。でも「知ってる」と「できる」ってことには結構差があったりするので恥ずかしげもなく書いておく。
自分の人差し指をさ、自分の目の前、眉間のあたりに据えて片目ずつ見ると、角度が変わって見え方がまったく変わるじゃん。指じゃなくてもなんでもいいよ。ペットボトルとかFAX電話とか乾電池とか。で、片目では見えなかった部分が、もう片方だと見えたり、逆に見えた部分が見えなくなったりする。キュビズムって要はそうやって、両方で見えたもの、右目だけで見えたもの、左目だけで見えたものを全部ひとつにして描くってこと。こうやって文章にすると教科書に書いてあるキュビズムの説明とあんまし変わらないんだけど、やってみるとすげー! ズババババって世界が変わる感じ。絵が得意じゃない人も是非やってみてほしい。色んな角度から見たものを、ひとつにしちゃうってことだけで、すごい革命的! 誰でもピカソ!!


でまぁ、ピカソとかは恋人とかをこうゆう手法で描いて「何このヘンな絵は! モデルはワタシですって!?(海外ドラマの吹き替え風で)」とか怒らせちゃったりするんだけど、でもこれって最高の愛のあらわれだと思うなあ。だって、恋人の卵のように美しい輪郭とか、印象的な瞳とか、儚げな横顔とか、泣いてる表情とか怒ってる表情とか、どの要素も彼女を描くのに欠かせないと思って、選ぶに選びきれなくってひとつにしちゃうっていう。美しいものも醜いものもすべてをひとつにしちゃおうっていう試み。大胆だけど共感できる。ワン・アングルからのみ精緻に描く手法をマスターし、それからタッチを変えたり部分を強調したりして対象物の印象をより豊かに表現する手法をマスターし、それでもやっぱり描ききれない部分を感じてあーゆー絵に行き着いたんだろうなぁと思ったらそれだけで、彼がどれだけ世界を愛してたかがしのばれて涙が出そうになる。


おれは、フツーに描いてるつもりでもキュビズムみたいになっちゃうダメ漫画家だけど、こういう風に、世界を表現できたらいいなと思う。絵が描けない人は、音楽で、詩で、小説で、評論で、数学で。「おしゃれ工房」みたいな手芸だっていいよ。アプローチは色々ある。いいところだけ見ようとせず、表も裏も慈しむように残酷に描き出せたら、きっと自分の周りにある世界をもっと愛せるようになると思う。