それは抗いようもなく

ひとつの大きな石があった。
その石は非常に利用価値が高い。
その石を利用するには石を割るか、運ぶことをしなければならない。
しかし人々は石を囲み、眺めてあれこれ言いはするけれど、誰ひとりその石を割ったり運んだりする様子はない。ただ、ぐるりと囲んで隣の人とああでもない、こうでもないと言い合っているだけである。

この石はいい石だ。ああ、とてもいい石だ。この石からはいい臼が作れるにちがいない。いや、石包丁にするのが向いている。いやいやこれは身分の高い人の庭の装飾とするのがいいだろう。そんなものにするよりは、多くの人に役立つものがいいだろう。ちょっと待て、多くの人に配ってもその価値が分かるのは一握りだろう。それなら価値が分かる一握りの人に高い値段で売ろう。売上は誰が取るんだ、独り占めは許さないぞ。じゃあみんなで分けよう。分けたら大した額にならないから、みんなで使えるものを買おう。では収穫を蓄える倉を買おう。いや、川を渡る橋を買おう。橋より水車のほうが必要じゃないか。水車なら最新式のがいい。最新式のよりも少し古い方が壊れにくいと聞いた。数年待てば壊れにくくて性能もいい水車ができるんじゃないのか。待ってるあいだに隣村との収穫の差が広がっていったらどうする。隣村のやつらにはそんな技術はない。隣村出身のおれを馬鹿にしているのか。技術がないのは事実だろう。事実だからといって他人を馬鹿にするのは品性が下劣だ。品性も何も、俺たちそんな大したものか。大したものじゃなくたって、生きてるんだもの、に
んげんだもの。

そうやって話しているうちに百億回の雨が降り、石は風化して砂となり土に混じり、人々はそれを耕し収穫をするほかなかった。

一方人々の話が馬鹿らしく黙々と耕した人は、風邪をこじらせて死んだ。
故郷に愛想を尽かして旅立った人は熊に食われた。