いいはなし

10数年ぶりに、祖父と伯母に会ったのだ。
祖父は今年96になる偉丈夫なのだが、もともと耳が遠くて口数も少ないのでなんだかよく分かんない人だと思っていた。
久しぶりに会ったその人は相変わらずガタイがよくて、耳も聞こえなくて目もほとんど見えなくなっていたけど、一人で近くのセンターに風呂に入りに行ったりするそうだ。ずっと囲碁をしているせいかボケてもいない。
あの頃、親戚の中で可愛がられているのは専ら兄のほうで、おれはおちゃらけたアホの子だと思われていた(兄妹とも同じ大学に入ったんだけどね! ムキー!!)。
祖母は兄ばかりを「頭がいい」「可愛い」と言い、周りの大人たちも同様だったので幼いおれはまあ、そんなもんだろうなぁ実際とか斜に構えていたけれど。
祖父だけはおれのこと「いや、この子は可愛い」と言ってくれたって。
知ってはいたけれど、改めて伯母からそういう話をされると、目の奥がつんとした。
耳が遠いので超デカい声で「覚えてる!?」と訪ねて、「覚えてるぞ!」とこれまたデカい張りのある声で答えられると、「もう関係ない」そう思っていた10数年が急に申し訳ないものになったような気がして。
元気でいてください。元気で過ごして、コロっと死んでください。そう願わずにはいられないのだ。